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[1]民間芸能
(1)民間芸能の概観
台湾の芸能の歴史は、東海の孤島に安住の地を求めて、はるばる台湾海峡を渡った漢族系移民の人達の歴史でもあります。 厳しい自然との戦いや先住民族の人達との軋轢(あつれき)のなか、日々、開拓を続ける彼らは廟を建て、守護神を祀って、天のご加護を求めました。 そして毎年縁日の日には、天への謝意を込めて、盛大なる祭祀が催され、華やかなる奉納芝居が演じられたのです。
今日、街の片隅で見かける露天芝居も、廟のなかに鎮座する神像と向き合う形で演じられていることに気付きます。
また、婚礼や弔喪、長寿の祝いに、宴席をにぎわす祝福芸は欠かせませんでした。
台湾の芸能の歴史はまさに、奉納芝居や祝福芸から始まるのです。
一方開拓が進み都市が形成されてくると、今度は純粋な娯楽としての芸能が人々の心を和ますようになります。
(2)代表的な芸能の紹介
ここでは、[1]古典芸能, [2]大衆芸能, [3]民族芸能
の3つに大別します。
[1]古典芸能
台湾に古くから伝わる代表的な古典芸能には、@南管 とA北管
があります。
@南管(なんかん)
台湾に最も早く入植を開始した泉州系移民が、その故郷に古くから伝わる
民間音楽をこの地に伝えた際、北方各地の民間音楽と区別するために用いる
ようになった、台湾独自の呼称です。
この南管音楽を中心として演じられる演劇に『南管戯』があります。
南管は『ビン南方言』を用いました。
A北管(ほっかん)
北管は清代の乾隆,嘉慶年間, 中国本土から相次いで伝わった北方系の演劇
およびその伴奏音楽の総称です。 このため、一口に北管といってもそこに
は本来、系統の異なるさまざまな演劇と伴奏音楽が含まれます。
その主流は『乱禅』といいます。
北管はいわゆる『管話』で演じられました。
[2]大衆芸能
今日でもなお多くの人々に愛され、活発な興行活動を続けている芸能があります。
@歌仔戯(Koa-a2-hi3)〔コ一ア一ヒ一〕
歌仔戯は民間歌謡(歌仔
Koa-a2)〔コアァ一〕を歌いながら身振りを加えて演ずる台湾式オペラです。 今世紀初頭、台湾北東部の蘭野平野で誕生しました。
A布袋戯(Pou3-te7-hi3)〔ポ一テ一ヒ一〕
後述
[3]民族芸能
台湾の芸能には、以上述べましたような大掛かりな演劇の他に『歌舞小戯』と呼ばれる、歌と簡単な踊りを組み合わせただけの比較的小規模な歌舞芸能があります。 郷土色の濃い民族芸能として、地元の愛好家たちの根強い支持を受けて寺廟の縁日などには欠かすことのできない出し物になっています。
代表的な歌舞小戯として『車鼓戯』〔チァコ一ヒ一〕があります。
[2]布袋戯とは
(1)人形劇の種類
布袋戯は、現在台湾で最も人気のある、指人形を使った人形劇です。
布袋戯(ふたいぎ),北京語では(Bu dai xi)〔プータイシ〕,台湾語では(Pou3-te7-hi3)〔ポ一テ一ヒ一〕と読みます。
台湾語の辞書を引くと〔人形芝居;指先で操って演じる〕となっています。
Pou3-te7 〔布袋〕は(米や小麦粉を入れる)布袋。
hi3 〔戯〕は劇。
すなわち、『人形を大きな袋に入れて運んだこと』にちなむ命名とされています。
台湾の伝統人形芝居には片手遣いの布袋戯、糸操りの傀儡戯(かいらいぎ),
台湾語では(Ka-le2-hi3)〔カレイヒ一〕、影絵芝居の皮影戯=皮隅戯〔ピ一ウンヒ一〕の3種類があります。
(2)スタイル
人形の裾から手を入れて、片手で人形を操ります。 片手遣いと言います。
また大型の人形の際は、もう一方の手が添えられます。
(3)人形遣いと語り
人形遣いが、すべてのセリフをひとりで語り、主な登場人物を使い分けていきます。 登場人物の多い場面では助演者が一部の人形を遣います。 その場合もセリフはすべて主演者が語り、この語りが芝居の中で大きな比重を占めています。 また場面によっては主演者と演奏者の掛け合いもしばしば行われます。
(4)上演の場所
上演は、廟と呼ばれる道教寺院の境内や、路上、祝い事に富裕層の自宅などで、いずれも寺や商店街、また個人などがスポンサーとなり上演料を払って劇団を呼ぶ形をとってきました。 また、戦後は一時劇場で興行として上演されました。
(5)人形
人形は俗に「八寸人形」といわれる30pに満たない小さなものが伝統的な形です。
戦中から戦後にかけてより大きな人形も登場してきます。
布袋戯の故郷ともいえる中国南部、福建省泉州では昔から優れた人形工房があります。
(6)舞台
布袋戯は「彩楼舞台」(さいろうぶたい)といわれる特色ある舞台が使用されます。
伝統工芸の粋を尽くした彫刻に金箔が施された絢爛たるものです。
この彩楼舞台が伝統的なスタイルですが、現在では寺院の境内などの上演には
ベニヤを蛍光塗料などで極彩色に飾り立てた書き割りの舞台が用いられるのが
一般的です。
(7)言語
台湾の言語事情はその歴史に対応して複雑なものがあります。
島内には多くの言語が共存しています。
その中で多数を占めるのは、いわゆる北京官話を標準とする『国語』と『台湾語』のふたつに分けられます。
『布袋戯』も台湾語ではポーテーヒー、北京官話ではプータイシーとなりますが、その歴史から上演は台湾語で行われています。
(8)布袋戯の音楽
台湾の演劇およびそこで使われる音楽は、その歌唱法と演奏の
特徴によって、南管系と北管系に大きく分けられます。(前述)
布袋戯についても、中国南部の福建省泉州一帯の民間演劇の流れを
汲む南管布袋戯と、中国北部の演劇の影響を受けた北管布袋戯の2つの系統
があります。 南管系は、叙情的な歌唱法を発達させて楽器も琵琶や笛を
多用して内容も文戯と呼ばれる情愛を中心としたものです。
台湾に当初伝えられたのはこの系統の布袋戯でした。
これに対して、北管系は唱の比重が少なく、楽器も銅鑼や哨吶などを中心に
激しい戦闘場面を見せ場とした武戯でした。
約百年前ほど前に台湾で北管系の演劇(北管戯)のブームが起こると共に
人形芝居でもこれをいち早く取り入れて生まれたもので、以後布袋戯の主流
となりました。
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